29 地獄の3丁目へようこそ(沼から覗く)

【最後の占い】
カレンダーを見ては、
次の診察、抗がん剤治療の効果測定日を確認していた。
気づけば、カウントダウンをするような目で日付を追っていた。
何か月も封印していた扉に、
自分から手をかけてしまった。
また「私たち、どうなるの?」という考えが、
頭の中のスペースを占領しはじめた。
これまでに、どれだけ占いに頼ってきただろう。
誰に鑑定してもらったのか、
どんな結果をもらったのか、
もう正確には思い出せない。
鑑定書、鑑定メール、
スクリーンショットの山。
いまさら、何万円も払う気はなかった。
そのときふと思い出したのが、
「継続サポート特典」をくれた鑑定師のことだった。
二回目は数百円程度でフォローしてくれる、という触れ込みだった。
迷いはなかった。
すぐにその鑑定師にコンタクトを取り、
今の状況を短くまとめてDMを送った。
返信はすぐに返ってきた。
「リカコさん、大変おつらい状況ですね。
カルマの靄は時間をかけて、
日々の小さな行いによっても
少しずつ晴れていくものです。
どうかご自身を信じ、
魂の導きを大切にしてください。」
その文章を読んだ瞬間、
胸の奥で何かがすっと冷えた。
──そうだ。
鑑定って、こんな感じだった。
やさしい言葉。
否定のない語り口。
でも、何も具体的には動かない。
魂の導き。
カルマの靄。
そんな言葉を握りしめても、
次の一歩は見えてこなかった。
誰に怒っているのか、
自分に対してなのか、
鑑定師に対してなのか、
その区別すらつかないまま、
ただ、強い苛立ちがこみ上げてきた。
もう、何やってるんだろう。私。
何かを信じたかったわけじゃない。
救われたかったのでもない。
ただ、
この不安に名前をつけてほしかった。
「大丈夫だ」と言ってもらえれば、
一瞬だけでも立て直せる気がしていただけだ。
でも、
その一瞬の安心のために、
私はずいぶん遠くまで来てしまっていた。
画面を閉じて、
そのまま何もしなかった。
これが、
本当に最後の占いになった。

タイトルとURLをコピーしました