6: 地獄の3丁目へようこそ(混乱期)

【入院生活】

全6クール予定の、初めての抗がん剤投与は、ひとまず順調だった。

初回は、副作用の有無や薬剤調整のため、入院での投与となる。
5日間に分けて、少しずつ体に入れていく。

抗がん剤投与を始めた、その夜からだった。
頭が割れるほど痛く、とにかく眠れない。
死ぬほど体調が悪いのに、眠れないのだ。

24時間、点滴の針が刺さったまま。
寝返りも打てない。
真夜中、点滴が空になると、
ピピピピピー……とアラート音が鳴り、
浅い眠りを、容赦なく引き戻す。

重たい頭と体のまま、朝を迎えた。

「リカコさん、おはようございます。
いいですか?」

ベッドを区切るカーテンの向こうから、主治医の声がした。

「はい、どうぞ」

おもむろにカーテンを
シャッ、と勢いよく開けて入ってくる医師も多い中、
先生は、いつも一呼吸おいてから入ってくる人だった。

「昨日は、重篤な副作用も出なかったみたいですね。
ご気分は、どうですか?」

穏やかに、微笑んでいる。

「はい……頭が、割れそうに痛くて」

「じゃあ、鎮痛剤、出しましょうね」

「はい、お願いします」

いくつか問診をやり取りして、
先生は病室を後にする。

私はベッドに横になったまま、その背中を見送った。

先生の横に張りつくように立っていた研修医は、無邪気でポップな兄ちゃんだった。

それと比べると、先生はまるで重厚な家具だ。動かないし、主張もしない。
でも、そこにあるだけで、ちゃんと安心できた。

先生の顔を見ると、安心する。

……なぜだろう。

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