3: 地獄の3丁目へようこそ(混乱期)

【既視感】

二回目の診察。
この日は、今後の治療計画や入院についての説明だった。

まだ会って二回目の先生なのに、不思議と緊張はなかった。
病名の重みよりも先に、その人の存在そのものに、静かな安心感を覚えていた。

フランクでおしゃべりなタイプの医師ではない。
どちらかといえば、口数は少なく、堅物で、研究者気質。
白衣の奥に、感情をあまり表に出さない人、という印象だった。

それでも、たわいもない話をしている、ほんの一瞬。
ふっと、彼の口元がゆるんだ。

真正面に座っていた私は、その瞬間を逃さなかった。
笑ったとき、目尻に浮かんだ、細い笑い皴。

――あっ……知ってる。この目。

そう思った瞬間、胸の奥がざわっとした。

頭の中で、理由を探すように考えていた。
「きっと、前にもどこかの病院で、この先生の診察を受けたことがあるんだ」
「どこだったっけ……?」

でも、どれだけ思い返しても、具体的な記憶は出てこない。

喉にできた腫瘍は日に日に大きくなり、食事も難しくなっていた。

「先生、食事が飲み込みづらくて」

そう伝えると、彼は短くうなずいた。

「じゃあ、ちょっと診ますね?」

口を大きく開ける。
覗き込まれる距離が、一気に近くなる。

「リンパ節、触りますね」

首に、手が触れた。
その瞬間だった。

――あっ……え、やだ。

この手の温度。
覚えてる……?

ひんやりでもなく、熱すぎもしない。
安心する温度。
この感触……懐かしい。

理由なんて、まるでわからない。
でも、はっきりと感じた。

「こうやって、いつも触れてくれていた手だ」と。

説明のつかない確信が、直感として、すとんと胸に落ちてきた。

それと同時に、
懐かしいような、
ずっと前から知っている人に、やっと会えたような。

言葉にしようとすると、すり抜けてしまう感情が、
胸の奥から、静かに、でも確かに、湧き上がってきた。

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