【退院】
一日おきの血液検査の結果が、待ち遠しくなっていた。
白血球の数が正常値に戻れば、退院できる。
このひとつだけを目標に、毎日をやり過ごしていた。
その日も、朝いちで採血。
数時間後、研修医が結果を手に、病室にやってきた。
「白血球の数値、いいですね。
戻ってますよ」
「ほんと?
え、じゃあ、退院していいですか? 今日!」
研修医は目を丸くする。
「あ、え、きょ、今日、これからですか?」
「はい。精算して、帰ります」
もう、一分だって、ここにいたくなかった。
「あ……じゃあ、主治医の先生に確認してきます」
そりゃそうだ。
研修医に、退院の許可を出す権限なんてない。
私は勝手に、荷物をまとめ始めた。
しばらくして、
申し訳なさそうな顔で、研修医が伝書鳩のように戻ってくる。
「あ、あの……
今日これからの退院は、無理だそうです……」
「え? なんで?」
思わず、ため口になる。
「あ、いえ……
これからの通院での抗がん剤治療のオリエンテーションとか……
あ、え、お……」
私のイラついた空気を察したのか、
研修医は、明らかにビクビクしている。
「……そうですか。仕方ないですね」
ぼそっと返すと、
「すみません……」
「主治医の先生、今日はいらっしゃいますか?」
「あ、はい。たぶん……」
ピリついた空気に耐えきれず、
研修医はそそくさと病室を出ていった。
――が、
今度はスキップでもしているかのような、
やけに軽い足取りで戻ってきた。
「リカコさん!
退院、オッケー出ましたよ!
このあと、看護師から通院の説明と、
薬剤師から説明を受けてから、退院手続きをお願いします」
「ありがとうございますっ!
やったー!」
私は何の遠慮もなく大喜びして、
半ば無理やり、退院してきた。
あの時は、
先生と離れることが、
こんなに苦しくなるなんて、
想像もしていなかった。
