5: 地獄の3丁目へようこそ(混乱期)

【抗がん剤開始 初日】

朝から、抗がん剤開始の準備のために、
看護師や薬剤師が入れ替わり立ち替わり、
ベッド脇に来ては説明をしてくれる。

人生で何度も経験したいものではないけれど、当然、初めてのことだ。
この日は珍しく、少しだけ緊張していた。

病棟の担当医師が、血管を探し、点滴の針を刺す。
私は、静かにぶら下がっている
“劇薬”の入った点滴の袋を、じっと眺めていた。

ぽたっ、ぽたっ……。

落ちた薬は、細いチューブを通って、
少しずつ、確実に、私の体の中へ入っていく。

何かあった時のために、
横には看護師が待機している。

「ご気分はどうですか?
大丈夫ですか?」

ちょこちょこと、様子を聞きに来てくれる。

「はい。何も変わりありません」

「じゃあ、リカコさん。
何かあれば、すぐ呼んでくださいね」

そう言って、ナースコールのボタンを
私の手に握らせ、病室を出ていった。

……ひまだな。

私は、病室の天井を、
ぼーっと眺めていた。

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