27地獄の3丁目へようこそ(ツインレイ沼)

【私が欲しかった安心の正体】

彼の目。
廊下で見かけた後ろ姿。
ふと浮かぶ、作り笑いのような悲しい微笑み。

それを見るたびに、胸をぎゅっと掴まれたような感覚を覚えた。

ある日の朝、私は大学病院の別の科を受診するため、待合室の廊下で仕事をしながら番号が呼ばれるのを待っていた。

パソコンから目を離し、ふと顔を上げた瞬間、先生が目の前を通っていった。

「あっ……!」

その瞬間、反射的に顔をそむけ、すぐにパソコンの画面へと目線を落とした。

――逃げたのだ。

あんなに近づきたくて、触れたくて仕方がなかった先生が、すぐ目の前を通っているのに。
私は一瞬で、逃げる選択をした。

「先生!おはようございます」

たった一言。
その一言すら、言えなかった。

拒否されたらどうしよう。
迷惑がられたら?
無視されたら?
他の患者さんの目は……?

そんな、起こるはずもないことを次々と思い浮かべてしまい、
声をかけるより、逃げるほうがずっと楽だった。

そのとき、ふと思った。

「ちょっと待って。
これ、先生が私にしていることと、同じじゃない?」

――これが、鏡の法則?

ふっと、苦笑いがこぼれた。

翌日、先生の診察で目を見た瞬間、
私は廊下でのその“気づき”を思い出していた。

彼の目を見ていると、
何かが、すっと降りてきたような感覚があった。

「拒否されたくない。
愛されたい。
捨てられたくない。
自分を押し殺す……」

浮かんできた言葉たち。

――この感情、全部、私だ。

そう。
彼の目から受け取っていたあの悲しみは、
すべて私自身の奥底に蓋をして、閉じ込めて、
ずっと見て見ぬふりをしていた感情だった。

この気づきが、まだ終わりじゃないことを、そのときの私は知らなかった。

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