1:運命、ここから狂う(序章)

長く暑い夏がおわりかけた 2024 年の秋頃。

喉に違和感があり、たんが絡みつくようになった。

 

毎年この季節は花粉症に悩まされていたから、

「またアレルギーだろう」

そんな軽い気持ちで、私は近所の耳鼻科へ向かった。

 

医師は「では喉の奥を診てみましょう」と言い、

慣れた手つきで鼻から内視鏡を入れた。

 

その瞬間——

医師の動きがピタリと止まった。

 

画面に映し出された私の喉の奥を、

医師が眉を寄せて凝視している。

明らかに“何か”を見つけた表情だった。

「……リカコさん……あれ……ちょっと待って、ね。」

嫌な“間”が落ちる。
その言葉の温度だけで、アレルギーではないと悟った。

「ここ、見て。ここ、膨らんでるでしょ?何か、できてるのよ。」

内視鏡が入ったままの私は、
目だけで「うん、うん」と返す。

「ちょっと……うちではこれ以上の検査ができないから、
すぐ大学病院で診てもらって。」

内視鏡を抜く医師の顔は、険しかった。

解放された私は、食い気味に聞いた。

「え、先生、何があるんですか?」

しかし返ってきたのは曖昧な答え。

「……んー、それは大学病院で調べてもらって。」

——何かが“よくない”ことだけは分かった。

私はすぐ大学病院の予約を入れた。
数日後から検査が始まり、
約3ヶ月かけて原因が探られた。

なかなか診断が出なかった理由は単純だった。

耳鼻科の領域の病気ではなかった。
血液の病だったから。

そしてついに、確定診断の日。

「……悪性リンパ腫です。」

私はそのまま大学病院の血液内科へまわされた。

——そう。
このとき私はまだ知らなかった。
ここから“地獄の扉”が開くことを。

そして、もうひとつ。
病気と同時に、
ツインレイという“別の地獄”の扉も開くということを——。

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