【既視感】
二回目の診察。
この日は、今後の治療計画や入院についての説明だった。
まだ会って二回目の先生なのに、不思議と緊張はなかった。
病名の重みよりも先に、その人の存在そのものに、静かな安心感を覚えていた。
フランクでおしゃべりなタイプの医師ではない。
どちらかといえば、口数は少なく、堅物で、研究者気質。
白衣の奥に、感情をあまり表に出さない人、という印象だった。
それでも、たわいもない話をしている、ほんの一瞬。
ふっと、彼の口元がゆるんだ。
真正面に座っていた私は、その瞬間を逃さなかった。
笑ったとき、目尻に浮かんだ、細い笑い皴。
――あっ……知ってる。この目。
そう思った瞬間、胸の奥がざわっとした。
頭の中で、理由を探すように考えていた。
「きっと、前にもどこかの病院で、この先生の診察を受けたことがあるんだ」
「どこだったっけ……?」
でも、どれだけ思い返しても、具体的な記憶は出てこない。
喉にできた腫瘍は日に日に大きくなり、食事も難しくなっていた。
「先生、食事が飲み込みづらくて」
そう伝えると、彼は短くうなずいた。
「じゃあ、ちょっと診ますね?」
口を大きく開ける。
覗き込まれる距離が、一気に近くなる。
「リンパ節、触りますね」
首に、手が触れた。
その瞬間だった。
――あっ……え、やだ。
この手の温度。
覚えてる……?
ひんやりでもなく、熱すぎもしない。
安心する温度。
この感触……懐かしい。
理由なんて、まるでわからない。
でも、はっきりと感じた。
「こうやって、いつも触れてくれていた手だ」と。
説明のつかない確信が、直感として、すとんと胸に落ちてきた。
それと同時に、
懐かしいような、
ずっと前から知っている人に、やっと会えたような。
言葉にしようとすると、すり抜けてしまう感情が、
胸の奥から、静かに、でも確かに、湧き上がってきた。
